東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)129号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件商標の商標登録出願日、登録日、構成及び指定商品並びに本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は「オールラウンド」という語の意義及び右語の具体的な使用例並びに「愛用者の証言」から「ALLROUND」という語が「回転・滑降の両方に使えるスキー」というスキーの品質を表示する語として使われている旨誤認し、また、本件商標が商標法第三条第二項所定の商標に当たる旨の原告の主張についての判断を遺脱した結果、誤つた結論を導いたものであり、この点において違法として取り消されるべき旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の主張はすべて理由がないものというべきである。
成立に争いのない甲第六号証の一〇ないし一三の各(イ)ないし(ハ)及び第四三号証、第四四号証の各一ないし三及び第四五号証、第四六号証の各一ないし四によれば、本件商標の「オールラウンド」という語が、本件商標の登録日である昭和五二年一二月一九日前から「万能な、多芸の」、「全般にわたる」、「多方面の」、「いろいろな分野のことをうまくこなすさま」、「万能な人」等を意味する英語「ALLROUND」からきた外来語として一般世人に理解されていたことは明らかである。
ところで、本件審決認定のとおり「オールラウンド」という語が、本件審決指摘の多くの会社等で、スキーに関して、「オールラウンド」、「オールラウンドスキー」、「オールラウンド用」、「オールラウンドタイプ」、「オール ラウンドモデル」、「オールラウンドのスキー」というように使用されていること(その使用の時期及び期間の点を除く。)、及び増原宣義外五名(プロスキーヤー、スキースクールの校長等)が「オールラウンド」という語をスキーについて記述的に使用していることは原告の認めるところ、原告は右「オールラウンド」等の語についての本件審決認定の意味内容等を争うから、これらの語が、スキーについて、いつごろから、また、いかなる意味内容を表示する語として使用されていたかについて検討することとする。
「オールラウンド」の語が前認定のような意義を有する語として一般世人に理解されていること、及び原告自認に係る上記の事実に、成立に争いのない甲第六号証の一四、一六、一八、二七、二九及び三一の各(イ)ないし(ハ)、同号証の一五の(イ)ないし(ホ)、同号証の一七、二〇、二五及び三二の各(イ)ないし(ニ)、同号証の一九の(イ)ないし(チ)、同号証の二一の(イ)ないし(ト)、同号証の二二の(イ)ないし(ル)、同号証の二三、二四、二六及び二八、同号証の三〇の(イ)、(ロ)、同号証の三三の(イ)ないし(ヘ)、同号証の三七の(イ)ないし(オ)並びに乙第五号証の一、二、第六号証の一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし五及び第九号証、第一〇号証の各一ないし六を総合すると、「オールラウンド」の語は、昭和四二年ころから本件商標の登録の日(昭和五二年一二月一九日)前までの間に頒布された本件審決指摘の会社等の製造又は販売するスキーに関するカタログ又は広告等に、また、そこに掲載の「愛用者の証言」と題する記事において、スキーに関する記述として、「オールラウンド」、「オールラウンドスキー」、「オールラウンド用」、「オールラウンドモデル」又は「オールラウンドのスキー」というように多用されており、それらに記載の「オールラウンド」の語の用法は、個々的にはニユアンスの差があるものもみられるが、その語が回転、大回転、滑降専用等品質を表示したスキーと対置される態様で、あるいは「スキー特性&バーン状況」の項目中の説明として示されていること等から、競技用、特に一般用スキーにおいて、回転・滑降の両方に使用できる性能を有するという意味又はこの性能を含む意味で「万能型」であるとのスキーの品質を表示する語として使用されているものと看取するに十分であり、また、右のカタログ、広告等に接した取引者及び一般需要者は、「オールラウンド」の語が付されたスキーについて、右のような性能を有する万能型のスキーと観念することはごく自然なことと認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。原告は、上掲各証拠に示される「オールラウンド」の用語の意義につき右認定と異なるものとしてその理由をるる主張するが、その主張するところは、成立に争いのない甲第五〇号証の一ないし一〇、第五一号証の一ないし一一、第五二号証の一ないし一二及び第五三号証の一ないし七に記載されている「コンビネーシヨン」又は「コンビ」の用語の意味等を考慮に入れても、個々的ニユアンスの相違を殊更に強調する以上に出るものではなく、上記認定を左右するに足りず、採用することができない。そうすると、「オールラウンド」なる本件商標を、その指定商品中スキーに使用する場合は、取引者及び需要者は上記の品質を表示するものと認識し、理解するものと解せられ、しかも本件商標の表示方法は前示構成からみて極めて普通の方法で格別の識別力を有するものではないから、結局、本件商標は指定商品中スキーに関して自他商品識別標章としての機能を有しないものとみるほかなく、また、これを右の性能を有しないスキーに使用する場合には、取引者及び需要者をしてその商品の品質を誤認させるおそれがあるものと認めざるを得ず、商標法第三条第一項第三号及び商標法第四条第一項第一六号の規定に該当するものとして、商標登録を受けることができないものというべきである。なお、原告は、本件審決が株式会社三省堂発行の「コンサイス外来語辞典」を資料として、「オールラウンド」の語がスキー用具について「回転・滑降の両方に使えるスキー」を意味するとした点を論難するが、この点の当否は別として、右辞典をこの意味の資料として採用しない場合においても、前説示のとおりに解される以上、この点は本件審決の結論に影響を及ぼすものではなく、したがつて、原告の右主張は採用するに由ない。
次に、原告は、本件商標並びに「ALLROUND」及び「オールラウンド(ALLROUND)」の語を長年にわたつて原告の製造、販売に係るスキーの商標として使用してきたものであり、その結果、本件商標は自他商品の識別機能を有する著名商標として認識されている旨主張するから、検討するに、なるほど、成立に争いのない甲第六号証の三九の(イ)、(ロ)から七四の(イ)ないし(ニ)まで及び同号証の七六の(イ)ないし(ハ)から一〇四の(イ)ないし(ハ)まで(同号証の一〇〇の(イ)ないし(ハ)を除く。)の各証(いずれも広告、雑誌又はパンフレツト)によると、原告が昭和三八年ころ以降本件商標の登録に至るまで「オールラウンド」又は「ALLROUND」の商標をその製造、販売に係るスキーに使用していたことを認めることができるが、前認定のとおり「オールラウンド」の語が他の会社等の製造販売に係るスキーについて本件商標の登録前一〇年余にわたりその品質表示の語として多用されてきた事情を勘案すると、上掲甲号各証及びこの点に関し原告の挙示する他の全証拠をもつてするも、いまだ原告主張の右事実を認めしめるに足りず、したがつて、原告の右主張も採用することができない。なお、原告は、本件審決が商標法第三条第二項についての原告の主張につき判断を遺脱した旨主張するが、前示本件審決理由の要点に照らせば、本件審決は、原告が「オールラウンド」の語を古くから使用していることを認定したうえ、本件商標の設定登録前から他の多くの会社においてもこの語をスキーに使用していることから、本件商標はこれをスキーに使用する場合、自他商品識別の機能を有しない旨認定判断しているのであるから、本件審決にはこの点につき判断の遺脱があるものとすることはできない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、本件審決の認定判断は正当であり、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、別紙記載のとおりの「オールラウンド」の片仮名文字を横書きしてなり、商標法施行令別表第二四類「運動具、その他本類に属する商品」を指定商品とする登録第一三一六九二三号商標(昭和四三年一二月二日商標登録出願、同五二年一二月一九日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、被告は、昭和五三年一〇月二三日、特許庁に対し、原告を被請求人として、本件商標の登録無効の審判を請求し、同庁昭和五三年審判第一五六〇七号事件として審理されたが、昭和五八年五月一一日、「本件商標の指定商品中「スキー用具」についての登録を無効とする。」旨の審決があり、その審決謄本は、同年七月六日原告に送達された。